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「黒矢?」
泣きすぎて、寛貴の顔を見上げる事が出来ない。
ていうか!!こんな涙やらなにやらでぐちゃぐちゃになった顔、見せられるわけがない。
「俺、ほんとっ……、こ、んなっ、じ、しあわ、せでいっ、いいの?」
正しい発音をすると途中にぐずっ、だのけほっ、だの嗚咽が混ざる。
寛貴は辛抱強く聞いて、安心したように俺をまた抱きしめると、俺の頭まですっぽり腕の中に入れた。
その頭に自分の顔をのっけて長いため息をつく。
「寛貴……?」
「はぁ……、今『嫌いだ』とか『その想いには答えられない』とか言われるかと思った……。ビビらせんなよ」
自嘲気味にそう言った寛貴は更にぎゅぎゅっと俺を抱きしめ(締め付け)る。
「寛貴……、苦しいよっ……」
寛貴の広い胸に顔を思いっきり押しつけられた俺は不満を口にする。
でも、そんなちょっとした笑い事ですら、本当に嬉しくて、嬉しくて、思わず笑顔が零れる。
いつの間にか、涙なんて止まっていた。
くすくすと笑えば自然と顔は見合うとようになって、笑いがおさまれば、雰囲気は甘くって。
照れて顔を真っ赤にすると、寛貴は真剣な顔を見せた。
自然と俺は眼を閉じて、唇をきゅっと結ぶ。


「黒矢……、好きだ……」
その言葉が俺の耳に届いたのと同時に、俺の唇に、寛貴の唇が降りてきて。
今まで感じたこと無いくらい、幸せな気分。なんて言うか、こう……、天国??
なんて、体感したこと無いんだから解るわけないんだけど……、甘い。
キス以外のことは、沢山させられたけど、キスって言ったら、これが初めて、なんだ。
ファーストキスがこんなに、濃くちゃ、俺これから耐えられるのかな……? 
舌が入ってくる。
寛貴はわざとらしく、くちゅ、と音を立てながらキスするから、されてるこっちはたまったもんじゃない


本当、幸せ。


想いが通じ合ってから初めてのキスなのに、俺たちはどれくらい長い間キスし続けてたんだろう。
窒息しそうだ。かくっと、上体が倒れそうになるのを寛貴が支えてくれたおかげで、どうにか
倒れて、ベッドの下に落下せずにすんだ。そのまま抱きしめてくれた寛貴にしばし身体を預ける。
「黒矢、抱きたい」
唐突に耳元で囁かれたその言葉に、俺は最悪の記憶を思い出した。
瞬間的な動揺を隠しきることができなくて、身体がびくっと強張った。
でも……、寛貴なら信じられる? 俺を捨てずに愛してくれる?
身体だけが目的なの? 性急すぎて怖くなりそうだ。
だが、寛貴なら、俺を愛して守ってくれる。
何故かそう感じた俺は、返事をするかわりに、強張って思うとおりにならない身体に必死になって命令を下し、顔を上に向けて寛貴の
くちびるにそっとキスをした。
「っ……!」
俺のいきなりの行為に寛貴も驚いただろう。だが、俺の思いをくみ取ってくれたようだった。
抱きしめていたその手をすっと離すと、そのまま俺の肩に掛けてやさしく、ベッドに押し倒した。
寛貴も、ベッドの上に上がってくる。
「本当に、いいのか?」
「……そんなの、聞かないでよ」
俺は、寛貴が何を心配してるのか何となく解っていた。
寛貴はきっと、俺が中学生の時に陵辱されたことが、今から俺たちがシようとしている行為へのトラウマになってしまってて、
それをすることを嫌がってるんじゃないか、と思ってるんだ。さっき話を聞いたばかりだから。
「確かに、そういう行為に嫌悪を覚えたりはするよ。でもそれは、俺が体験してしまったものが同意の上での
 行為で無かったから。同意の上での行為なら、大丈夫でしょ?」
寛貴は俺のこと乱暴に犯したりしないって信じてるから、と付け加えれば寛貴は漸く安心したようだった。
寛貴は自分の着ていたベストを脱ぐとネクタイを緩め俺のセーターも脱がせてしまうと少し強引なキスをする。さっきの甘いものとは
違う少し雰囲気をもって訪れたそれに俺は身体を震わせた。
「ふっ……ぁ、ぅ」
イケナイ事に踏み込もうとしているせいか、さっきよりも大きく響いて聞こえる水音に、俺は自分の顔が耳たぶまで真っ赤になったのが
わかった。寛貴はキスを続けつつも、顔に掛けていた手を次第に下へともってくる。
乱れてしまった俺のワイシャツに手を掛けると上から一つずつ、そっとボタンを外してゆく。
寛貴の細く長い指が俺の鎖骨を撫で上げる。それだけで、吐く息が熱くなる。
顔の紅潮は未だ収まらず、首筋や鎖骨にキスをおとす寛貴の吐息が益々俺を混乱させていく。
「ぃたっ……!」
急に首筋の鎖骨の上あたりに痛みがはしる。寛貴が俺の皮膚に歯をたてたようだった。
「あ、わりぃ……、痛かったか?」
「ん、だいじょぶ……。ってか痕ついた?」
「あ、少しな……。嫌だったか?」
寛貴は不安そうに聞いてくる。遠慮がちに聞いてくる寛貴からはいつもの俺様王様な寛貴が想像できなくて思わず吹き出す。
吹き出したら、また寛貴が首筋に吸い付いて歯をたてた。
「んぁっ! ……ひろきぃっ……」
「笑うなよ……これでも、折角手に入れたお前を手放すまいと必死なんだからな……」
俺の顔に添えられていた寛貴の手は次第に胸へと降りてきて、俺の胸の飾りを見つける。
「ぁ、寛貴っ、そんなとこ……」
「そんなとこなんて言うなよ。俺からしたら可愛いんだし……な?」
寛貴はすっかり勃ちあがってしまって薄く桃色に染まるそれを指で撫で上げたり、指の腹で擦り上げたりする。
「ぁ、や、そんなっ……、あぁっ……」
その愛撫に俺はまるで女みたいなあられも無い声をだしてしまう。
手を口に当てて、必死で声を抑えようとする。すると寛貴がそれに気付いて、俺の手を口から外してしまう。
「もっと可愛い声、聞かせてくれよ。抑えるなんてもったいないぜ?」
既に赤い顔がますます赤くなった。なんでこの人はこんなに甘くて歯が浮いてしまうような台詞をっ……。
「寛貴ってこんな恥ずかしい人だとは思わなかったっ……」
「悪いな、恥ずかしくて。……でもそんな俺を好きでいてくれるんだろ?」



「……当たり前」