13.-エピローグ- 結局俺は初めての愛が通ったその行為に、感極まったせいか、今までにない快感と興奮を味わって、 そのまま『ばたんきゅう』ということで、汗だの涙だのナニだのとにかく汁まみれになったまま気を失ってしまった。 目が覚めた頃には、窓の外は真っ暗。俺は気が付くとカーテンで周りが仕切られたベッドの上に居た。 身体はすっかり綺麗になっていて、後孔に注ぎ込まれた寛貴のものも全部掻き出されたみたいだった。 さっきみたいに誰もいないのかと思ったら、そうでもなさそうだ。人の気配がする。 耳をすませば、何だかカーテンの向こうから会話が聞こえてきた。 「飛鳥先生、あざっした」 寛貴だ。寛貴が誰かと喋っている。 飛鳥先生、と言えばここの保険医をしてる眼鏡を掛けた先生だ。陸上部の顧問もしている。 聞いた話によれば高校時代は陸上でインターハイ優勝するほどの走者だったらしい。 今はもう走っては居ないらしいけどそのスリムで程良く筋肉(陸上選手時代の筋肉の名残らしい)の 付いた体型と明るく性格もあってか女子の人気を集めている。 「いや、いいけどよ。頼むから、あのことだけは内緒な……」 何かについて話しているようだけど、あのこと、ってなんだろう。 「いや、それにしても不覚だったぜ……。まぁさかお前に鳴美とヤッてるのを見られるとはなぁ」 なるみ。ナルミ。鳴美……。鳴美……?? まさか鳴美って俺の担任で音楽教師の鳴美先生!? ヤッた…?って、つまり鳴美先生と飛鳥先生がデキてる、ってこと!? 「えぇぇぇっっっ!!!」 俺は自分の思考に対する驚きのあまり飛び上がった。そしたら腰が痛いのなんのって。 「いったぁぁ………」 俺が素っ頓狂な声を出したせいで、話をしていた二人も俺が目を覚ましたことに気付いたらしい。 喋るのをやめたようだ。 「黒矢ぁ、目醒めたか……?」 寛貴は言いながら、俺の寝ているベッドのカーテンを開ける。 「ちょ、何か羽織ってくれよな……」 俺を見ると即刻寛貴が言った。一瞬『ハオル』の言葉の意味が理解できずにいると、寛貴が、俺の身体を指さした。 見てみれば、俺の身体は寛貴のつけた赤い痕だらけだったことが解る。何せ、裸だから。 「んなっ!!」 真っ赤になった俺はあたふたとして、さっきまで自分に掛けられていた布団を身体に巻き付けた。 「よ、岡波。腰の具合はどうだ?」 飛鳥先生はずり落ちそうになった眼鏡をクイッと指で直しながら寛貴の横で俺の方を覗く。 「あーらら、ずいぶんと初々しい顔しちゃって、かぁわいいv」 ご丁寧に語尾にハート付きで言ってくれちゃう物だから、がっくりくる。ところで気になることを聞いてみる。 「先生、鳴美先生と付き合ってるんですか……?」 「ん? ああ、そうだよ。もっとも死ぬまでほかの誰にも内緒だがね」 先生は俺に顔を向け、人差し指を唇にあてて、『しーっ』と言うポーズをしてみせ、にっこり微笑んだ。 「さぁ、もう7時だ。部は遅いところで6時半までの活動だし、今頃なら二人で一緒にイチャイチャして帰っても大丈夫だぞ」 「せ、先生! 誰か聞いてたらどうするんですか!」 俺があわてて発言を止めると飛鳥先生はくすくすと笑った。 俺は寛貴が部室から持ってきてくれていたスポーツバッグから着替えを取り出すと、水華のジャージに着替えた。 俺が着替え終わると、俺と寛貴は自分たちの荷物を持ち、飛鳥先生にと挨拶して保健室の外へでた。 「あ……」 俺が思わず声をだす。だって目の前には鬼のような形相をした鳴美先生が居た。 「お前ら……、さっきのことを誰かに話してみろ……。全教科成績1にしてやるからな……」 「ひぃいいっっっ!!」 「わ、解りました。誰にも言いませんって! じゃ、鳴美先生、また!」 おびえる俺は奇声以外何も言えず、寛貴が何とか言葉を発した。 寛貴に引っ張られて急いで学校を出て、気付けば校門の外に居た。 「怖かったよ……。殺されるかと思った。聞いてたんだね、さっきの話の一部始終」 「あぁ……、あんな鳴美先生、見たことねぇな……」 あの後飛鳥先生が鳴美先生にどうされたかは知らない。寛貴の話だと鳴美先生が『受』らしいけど。 自宅に帰るつもりしてたけど寛貴が、家近いから泊まっていけ、と言ってくれたので途中で、 ファーストフードに寄って夕飯としてハンバーガーを食べた。 「寛貴、家族は? 急に俺が泊まっても大丈夫なの?」 食べている途中で聞いた。家の人に迷惑にはならないかと思ったのだ。 「一人暮らし。家に居ても意味ないし水華に遠いからマンション暮らし。家は医者一家なんだけどさ、知ってるだろ?ウチ、病院グループのトップなんだけど」 「え?」 俺、玉田だぜ? と寛貴が言ってからようやく気付いた。 「あの全国経営してる病院の!?」 「そう、ソレ。近くにもでっかいとこあるだろ? あそこ一番でけえ病院だな」 全国の都市には必ずあると言っても過言ではないくらい大きなグループ病院だ。 確かにココから二駅くらい電車に乗ったところにも大きな病院があるけど……。 てことは、もしかしなくても寛貴ってお坊ちゃま!? 「知らなかった……。というか気付いてなかったよ。寛貴の家ってみぃんなお医者さん?」 「おう。じいさんもばあさんも親父もお袋も兄貴も。兄貴も一人前の医者だよ。叔父さんや叔母さんだって医者だらけ。 ってか医者以外の血縁者見たことねぇよ。多分俺も将来は医者だな」 なんか玉田の名字持ったら医者決定みたいな感じ、と寛貴は言い足した。 それはある意味すごい。うちの父さんも会社を起こしてるから、いろんな有名な人に会ってきたけど、今まで 一種の仕事しかしない一族なんて、それこそ見たこと無い。日本中何処を探しても玉田家くらいだろう。 「すごい……。知らなかったから尚更驚きがすごいんだけど……」 「驚かなかったのは龍暁くらいだ。なんせアイツの家も一家全員別々の会社を持ってるくらいだからな」 「えぇっ!? 嘘でしょ、そんな、みんな社長なの?」 「あぁ。龍暁も既にネットで会社成功してるはずだぜ。高校生が既に阿呆みたいに金稼いでるからな」 「うえ……、あり得ないよ」 寛貴とお話ししながら食べてたら、結構な時間がかかった。 寛貴の家はそこから近かったからすぐについたけど。それにしても、寛貴の家はあり得なかった。 帰る途中で聞いたら、「普通の家だよ。ちょっとしたこじんまりのマンションみたいな」って言うから、 普通の大きさののマンションかな、と思ってたら数十階建てのマンションに住んでるんだから吃驚だ。 大体、「普通のちょっとしたこじんまりのマンション」で数十階建てなんて誰か想像するんですか。 彼の金銭感覚のおかしさを垣間見た気がして、ちょっと頭が痛くなった。 「寒かっただろ、暖房入れたからすぐに暖かくなる。それまで待っててな」 ソファに座ってろ、と言うのでお言葉に甘えてそうさせて貰う。 寛貴はいろいろと家の中の雑務をし出した。手伝おうかと思ったら、寛貴に止められてしまった。 「家の人に連絡しとけよ、無断外泊なんてお前がしたら絶対心配するだろ」 俺の家知らないのになんでそんなことまで解るんだよ……! でも、本当に連絡しないと怒られそうなので、ひとまず、さくら姉ぇにメールをすることにした。 メールは、『寛貴とついに恋人になれました。今まで手助けしてくれて有り難う。詳しいことは家に帰ったら話しますが、 今日の所は、寛貴のお家に泊まります。おやすみなさい』と打ち、感謝の思いを込めて送信した。 さくら姉ぇには本当に一杯助けて貰ったから、感謝してもし尽くせない。 さくら姉ぇはすぐにメールの返事をくれた。 『おめでとう! 黒矢が幸せを手に入れたみたいなのでひとまず安心してるわ。今度家に寛貴くん連れてきなさいね。 泊まることは、母さんに聞いたら大丈夫みたいだから。いかがわしいことは程々にねv』 なんて返事には書いてあった。思わず、さくら姉ぇってば……。と口に出してしまう。 「さくら姉ぇって誰だ?」 寛貴が、湯気の登っているマグカップを俺に差し出しつつ言った。中にはホットココアが入っている。 「ありがと……、暖かいね……」 「ん」 暖かい飲み物は持っているだけで手も暖めてくれるから良い。 そういえば、寛貴はさくら姉ぇに逢ったこと無いからどんな人か知らないんだ。 「さくら姉ぇは、俺の姉ちゃん。水華の大学生なんだ。寛貴とのこと、色々相談してたの。今度お家に連れて来てね、だって」 「相談……?男同士なのに、気にしてないのか、お姉さん」 「うん。別に性別なんて関係ない、って言ってるよ。さくら姉ぇ曰く、必要なのは愛なんだって」 「ふぅん。……そのうちに会えると良いな」 しばらく喋ってから俺は先にお風呂を頂いて、寛貴が貸してくれたぶかぶかのパジャマに着替えると、先にベッドに入った。 遠慮したのに寛貴が「明日は初めての朝だぞ? 二人で一緒のベッドに寝るのが幸せなんだ」なんて言うから、結局一緒に寛貴のベッドに寝ることになった。 「黒矢、まだ起きてるか……?」 寛貴が声を掛けながら、ベッドに入ってくる。クイーンサイズなのかキングサイズなのか馬鹿でかいベッドには二人ではいってもまだ余裕すらある。 「ん、起きてる。なんだか寝れないかも……、まだ興奮してるのかも」 「そうか。実を言うと俺も幸せすぎて心臓バクバクだ」 寛貴の意外な言葉に俺はクスクスと笑い、俺につられたように寛貴も笑った。 いかがわしいことこそしなかったけれど、触れるだけのキスをたくさんして、幸せを実感した。 俺、本当に幸せになれるんだ。 大好きな寛貴の傍で、朝を迎えられるんだね。 神様に背徳してるけど、神様、有り難う。って思った。 本当、幸せ。 「寛貴……、大好、き」 言った俺は、寛貴の暖かい腕の中でゆっくりと目を閉じた。 End.