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「ったく……、何やってんだ、こいつ」
飛鳥は、冷凍庫から氷やらアイスパックを持ち出してきては、袋に入れたり、薄い布で包んで、
それらをベッドで寝る龍暁に脇や首もとなど、血管の集まる場所にあてていく。
龍暁が運ばれてきたときには大分焦ったが、重症でもなさそうなのでそんなに心配はしていなかった。
龍暁を運んできたバスケ部の部員達は、ひとまず大丈夫だからということで部活の方にかえした。
まだ汗が引ききってはいないが、荒かった呼吸も幾分か落ち着いてきたように思う。
ひとまず、と安堵し、自分の使う椅子に腰掛けたときだった。
保健室の扉が、こんこん、と控えめな音をたてた。
(これ以上の面倒は勘弁してくれ……)
小さくため息をついた飛鳥は、どうぞ、と声を掛けた。
すると、扉はまた控えめな音を立てて開き、現れたのは――。
「失礼します……、あの、龍暁先輩が、ここに……」
男にしては大きな瞳。癖っ毛の、黒矢に似た風貌の、そこかしこに幼さが垣間見える少年だった。
「あー……、えと、君、何年の……?」
飛鳥は、一応所属を確認しておこうと質問を投げかけた。
すると、少年はあ、と弾かれたように声を上げ、飛鳥を見据えた。背が低いため、飛鳥を見上げるような形になる。
(まぁるで、……黒矢?)
「あの、一年の、関口和ノ介です。龍暁先輩の知り合いなのですが、倒れて運ばれていくのを見たので心配で……」
おどおどしてはいるものの、はっきりと応えた。
「あぁ、そうだったのか。……、そっちのベッドに寝てるよ。汗も大分引いて、今は落ち着いてる」
そう言って聞かせれば、ほっとした表情を見せる和ノ介。


和ノ介の希望通り、龍暁のベッドのそばに座らせて看病させているとき、飛鳥はふと職員室に今日中に仕上げる書類があったのを思い出した。
和ノ介が看病をしているなら、と思って、和ノ介に龍暁を任せると、和ノ介は不安そうに顔を歪めたが、なんとか丸め込み、飛鳥は職員室へと向かった。
「…………」
和ノ介は、宛われた椅子に座り、龍暁の様子を見ていた。
額にはまだうっすら汗が浮かび、飛鳥は大丈夫だと言ったが和ノ介から見たら依然苦しそうに見えるのは変わらない。
「ぅ…………」
「?」
和ノ介が不安にぐるぐると思考をまわしていると、龍暁が一瞬呻いた。
和ノ介は、何かあったのか、とのぞきこんだ。
「……龍暁、先輩?」
か細い声で、龍暁を呼んだ。
「…………? かず……、」
龍暁は寝ぼけているのか、声の下方向にうっすらと瞳を開き、和ノ介を見つめた。
そして、口の動きだけで、何かを、言う。
「……? 何ですか? 何か、欲しいものでも……?」
和ノ介は、物をとりに立ち上がった。しかし、意識せずがくっと身体のバランスが崩れる。
「!?」
引っ張られていた。龍暁が、和ノ介の細い腕を掴んでいる。
本当に寝ぼけているのかと思うような、強い力だ。
和ノ介は、怪訝な表情を龍暁に向けた。
が、辛そうな視線を和ノ介に向ける龍暁は、一気に和ノ介を引っ張り、自分の身体に引きつけると―――













飛鳥が保健室へ戻ってきたのは、間もなくしてからのことだった。
「悪いなー、任せちまって」
飛鳥は保健室へ入ると、龍暁の寝るベッドのカーテンを開け、和ノ介を見つける。
「…………」
和ノ介は、俯いて、ぼうっとしたまま何も言わない。
「……どうか、したのか? 和ノ介?」
肩を軽く叩いて呼びかけると、ようやく和ノ介は顔をあげた。その顔は、真っ赤に染まっている。
「あっ……、ご、ごめんなさい! 俺っ……」
和ノ介は慌てて我に返った様子でそれだけ言うと、飛鳥の脇をすり抜けてあたふたとした様子で、保健室を出ていった。
「…………??」
飛鳥は、いきなりの和ノ介の行動をおかしく思いつつも、和ノ介を追う気にもなれず、とりあえず龍暁の様子を見る。
龍暁はすうすうと寝息を立てている。体温を下げて安静にしていたおかげで回復も早かったのだろう。
安心し、カーテンを開けて自分の事務机に戻ろうとしたときだった。
「……飛鳥、先生……?」
声がしたかと思い振り返ると、龍暁が目を覚ましていた。
「おぉ、目覚めたか。 お前、疲れと貧血が重なって倒れたみたいだぞ」
龍暁は上体を起こし、すいません、と飛鳥に迷惑を掛けたことを詫びた。
「あの、飛鳥先生以外に、誰か、ここに来ませんでしたか?」
龍暁は、飛鳥を見上げると、ふと急に口にした。
飛鳥は不審に思った。なにかあったのだろうか。
「……いや、誰も。 どうかしたのか?」
思案を巡らした飛鳥が、そう言ってやれば、龍暁は苦笑いを浮かべて、こういった。
「あー…、いや、夢の中で、誰かにキス…、したんで、まさか寝ぼけてそんなことしたんじゃないよなー、と思って……はは、」
飛鳥はそれを聞いて先程の和ノ介の様子を思い出した。
「まさか……、な」
「え? ……どうかしましたか?」
いやなんでもない、と飛鳥はカーテンを全て開けてしまい、大丈夫ならさっさと部にもどれ、と青白い顔を龍暁から背けて言ったのだった。