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実際の所、黒矢は家事なんてあまり出来ないのではないか、と思っていた寛貴だったが、その予想は違った。
洗濯は出来るし、掃除も綺麗に出来た。
台所に立たせてみれば、包丁を持つ手はすこしばかり危なっかしく感じるけれど、それなりに料理だってできる。
(案外何でも出来るのか……)
何となく感心した寛貴だった。


「黒矢、せんたくものくらいたたみなさい!」
「嫌! おれ、たたまないもん。さくらねぇちゃんやればいいじゃん!」
「いまどきね、なんでもできないとだめなのよ!」
「いや、いや! やんない!」
懐かしい小さな頃を思い出しながら、黒矢は自分と寛貴、二人分の洗濯物をたたんでいた。
さくらによく色々とやらされた。洗濯ものをたたむことなんて当たり前だし、ある程度の料理もたたき込まれた。
(あの時に、怒られて嫌だったけど、ちゃんとやっておいて良かったぁ……)
小さい頃から姉や母に散々たたき込まれ何かと女の子のように育てられた黒矢は、家事ができることが当たり前だと思っていた。
寛貴は家事をする自分を見て喜んでくれている(だろう)し、小さい頃にやっていたことが今役立つのはとても嬉しかった。
今日はクリスマス。二人で、料理をつくる。
予約していたケーキを買い、ご飯物はドリアを作って、肉はチキンを焼く。
サラダとスープを作って、シャンパン(寛貴が買ってきた)をあける。アルコールがあるのは、クリスマスだからご愛嬌だ。
「頂きます」
「いただきますっ!」
二人でテーブルをはさんで向かい合い、料理に手を付ける。
どこかに食べに行こうかとも話したのだが、やっぱり自分たちで作る方が美味しいかと思ってこうした。
「美味しいね。やっぱり作って正解かな?」
「クリスマスなんて何処も混んでるさ。おまけに寒いしな。どこに行かなくたって、楽しけりゃそれでいいだろ」
「そうだね〜。……ん、シャンパン美味しい」
アルコールは家族に止められているらしい黒矢が飲みたいと言ったので、高くて、それも飲みやすいシャンパンをわざわざ選んで買ってきた。
聞けば黒矢は、小学生のころに父の飲んでいたビールを何口か飲んだだけで酔ってしまったことがあったらしく、
それ以来アルコールは、母の美津子にきつく止められていたらしい。
寛貴は実家にいた小さい頃から、父や兄の飲んでいたものを横からちょいちょい盗み飲んでいたので、シャンパン程度では酔わない。
大体の酒は飲めるし、好きだった。特に、上物のワインなんかは。
「あんまり飲み過ぎるなよ」
「わかってるよ。大丈夫」
言いつつくぴくぴと飲んでいく黒矢は少し心配だ。


「おいしかったぁ……。お腹いっぱい」
「ご馳走様でした。ん、うまかったな」
二人で片付けをして、終わると黒矢を風呂へと追い立てた。寛貴はさっさとキッチンに立って食器をあらいだす。
とは言っても、食器洗濯機がキッチンに付いているので、食器を中に入れておくだけで良いのだが。
水仕事を終えてしまうと寝室へむかい、ベッドにシーツを敷いてベッドメイキングを済ませておく。
それが全部終わった頃に寝室の扉が開いて、パジャマ代わりのジャージを着た黒矢が入ってきた。
「寛貴、お風呂ありがとう。暖かかったよ」
「おお、上がったのか。んじゃ、俺も入ってくるかな……」
言いながら寛貴は、黒矢の方へと歩いてきた。
黒矢の手からタオルを奪いとると、まだ水が滴る黒矢の頭をわしゃわしゃと半ば強引に拭いていく。
「ちゃ・ん・と! 拭いてこいって言っただろ。まったく……」
「ふぁぁぁっ……、ごめん」
頭を掻き回された感覚の黒矢は、ふらふらとしている。
「……風呂で暖まったらアルコール、抜けたか?」
「ん〜、微妙。でも、美味しかったし、気持ち悪くなってないから大丈夫だよ?」
そう言う黒矢の顔は風呂に入ってきたせいなのか、酒がまだ入っているせいなのか、ほんのり上気して赤い。
その姿に、寛貴は自分の中で頭をもたげた悶々とした欲望を確かに感じた。
「寝ないで待ってろよ? つーか今夜は寝かせてやらねぇ。楽しみにしとけ、このやろー」
すれ違い様に黒矢の頭をくしゃくしゃと掻き回して、風呂場へと向かう。
部屋からは、黒矢の抗議の声が聞こえたけど、そんなの寛貴は知ったこっちゃない。
とにかく、この長く明けそうにない夜のことを考えると、寛貴は楽しみ、黒矢は複雑、なようだ。