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あぁ、いまになって思うけど、自分でも面倒くさい事を引き受けてしまった。
不可抗力とはいえ、逢いたくない相手の所に自分から出向くなんて。
「仕方ない、かぁ……」
とぼとぼと廊下を歩く。既に渡り廊下は抜け教室棟に入ったところだった。
今歩いているのは1階の廊下で、生徒会室は4階にあるので階段を登っていかなければならない。
「うぅ、部活前なのに疲れそうだよぅ」
悪態をつきつつ仕方なく階段を登る。途中、見慣れた茶色の頭が目に入った。
「あ、颯輝!」
「ん? 黒矢だぁ。どしたの?」
元々線のように細い目をちょっぴりだけ細めて俺に顔を向けて傾げたのは、颯輝だ。
颯輝は、渋崎颯輝。寛貴や龍暁よりは低いけど、高い、と称されるであろう長身。
ストレートで目に掛かり、首が隠れるくらいにそろった茶色の髪。
ねっとりした口調が特徴でけっこう(というかかなり)ナルシストだったりする。
「これから部活いくの?」
俺が問いかけると、颯輝はいちど悩んだ。
「ん〜、行こうかなぁ? でも他に誰もいなかったらぁ、結構ショックかもね…」
その言葉を聞き、俺は茶封筒を掲げてみせる。
「俺がコレ頼まれたくらいだから、龍暁が居ることは確かだよ!」
笑顔でにっこり笑ってみれば、颯輝もにっこりと笑顔になった。
「そっかぁ。 ところで……、黒矢はソレをもってどこまでいくのぉ?」
「んと、生徒会室に。 寛貴が書類忘れちゃってて、今日までらしいから俺が届けに」
「そっかぁ。 寛貴のとこ行くんだぁ。 良かったね」
颯輝の言葉に、自分は寛貴が好きなんだ、とあらためて思う。
颯輝も俺が寛貴のこと好きなのは知ってるけど、
親身になって喜んだり哀しんだりしてくれるのは大部分が、この颯輝だ。
「うん……、そうなんだけど……」
「どうしたのぉ?」
背の低い俺の顔を覗き込んで心配そうに尋ねてくれる颯輝にまた嬉しさを感じた。
「実はね……、今あんまり寛貴と逢いたく、ないんだ。多分俺の勝手な勘違い、だろうけど」
「むぅ……、そっかぁ。でも逢ってみればまた変わると思うよ?」
「そーだね。行ってみるよ、ありがとう! 颯輝」
いつもおれのささいな困りごとに答えをくれるのはセフレを何人か持っていて
恋愛経験(?)豊富な(しかも男女問わず)彼だからだろうか。
そんな奴の答えを当てにするな、なんて罵声も何処からか聞こえてきそうだが。

部活に行く颯輝を見送ったあとも、階段を登り続ける。
体力が少ないと自分で理解している俺は、のんびりと登ってやっと4階までの長い階段を登りきった。
「えっと……、どこだったかな」
ただでさえ広い敷地があるうちの学校は1フロアだけでもとんでもなく廊下が長い。
何故かと言えば部屋を多く取って、その一つ一つを更に広く取るためらしい。
入学したての頃、水華に居て10年目になる寛貴に教えて貰ったのだ。
この学校では偏差値と倍率が高いので高校での外部入学者が珍しく周りは仲の良いグループばかりで、
更に中学でのこともあり最初のうち心を閉ざしていた俺も、寛貴達がすぐに受け入れてくれたから
今みたいに明るくなれた。中学時代に諦めてバスケを辞めていたら今の俺は居なかった。




4階のほぼ西端に位置する生徒会室は、普段は生徒会役員以外は入室が禁止されている。
しかし、この時期は役員入れ替えの事や決算もあるために一部の者に限って入室の許可が出ているんだ。
俺は寛貴の代わりに部長代理を務めてる龍暁の代わり、という名目で来ているため、
入っていいのか分からないから、悩む。
前から寛貴に許可を貰っていたわけでもないし。
部屋の前であたふたしていたら、扉にガンッ、と盛大な音を立てて足が当たってしまった。
「うおっ!?」
奇声までも発してしまい、部屋にいる人に不審におもわれたんじゃと咄嗟に思う。
危機的状況だ。どうしよう、どうしよう!!

がちゃ、と音がして急に扉がひらく。
目の前に現れたのは、見上げなければならない程に背が高くて眼鏡を掛けた、




男の人――――――――――――




ドクン………。心臓の動悸が急に激しくなったのを、自分で感じた。
「はぁっっ……、はぁ、ぅあっっ……、はぁっ」
息が途端に苦しくなって、過呼吸のように。いや、これは過呼吸だろう。
「いやぁっ!」
誰か分からないような男の人に至近距離で目の鼻の先まで近寄られ、反射的に
大声を出して両手で相手の身体を押し返してしまう。
「ちょっ……」
相手がなにか言ったのを聞いたとき、視界が反転して天井が見えたのを最後に真っ暗になる。
頭や身体全身に少し強い衝撃を感じて、あ、打ったかな、と思った。
それが最後で俺の思考が完全に止まったんだと思う。


――気付いたら、薬品の匂いが漏れ出ている保健室のベッドの上だったんだ。