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「暖かな日差しがさす今日、この小春日和に、我が水華学園は、新たな同志を迎えるに至りました。…」
スピーカーからは、1月からの生徒会会計、玉田寛貴の挨拶放送が流れている。
教室内には、大きなあくびをする者、イヤホンを耳に付けて音楽を聴いている者、なにか必死に書き物をする者、様々な者が居た。
その中で、こそこそとおしゃべりをしているのは、後ろの方の席に座っている岡波黒矢と関口景華だ。
「ねえ、なんか寛貴、いつもと感じが違う……」
むすっとした表情で景華にそう告げた黒矢に、景華はくすりと笑ってかえす。
「当たり前よ。全校生徒にこの挨拶放送が聴かれてるんだもの」
そう、その通りだった。
本日、水華学園は4月の上旬の今日、新年度を迎えたのだ。
つつがなく進級した黒矢と景華、寛貴達は、2年A組に籍を置くこととなった。
昇降口では、寛貴とクラスが同じになった、と、黒矢は嬉しそうに微笑んでいた。
が、しかしである。寛貴は生徒会役員としての仕事が山積みだった。
おかげで寛貴と引き離された黒矢は不機嫌モードMAXなのである。
景華は、午後に執り行われる予定の入学式までは幾分かの余裕があるため、教室に戻ってきていた。
むすっとしながらも、寛貴の声が流れているので、黒矢は何とかその機嫌を取り戻しつつあった。

今年の1月から、新たに発足した新規生徒会執行部の働きかけにより、入学式を出来るだけ生徒で運営してみよう、という動きになった。
新しいもの好きな新生徒会長のだした提案のようだった。
もちろん、正式なところは学校に任せているものの、重い空気になりがちな式典をできるだけ華やかにしてみよう、という働きかけらしい。
寛貴も生徒会役員になったわけで、最近はまた特に忙しい日が続いていた。
今期の新生徒会役員は、今のところ4人だ。
今期は、生徒会長の、3年、田丸俊(たまる しゅん)。副生徒会長には3年長岡将清(ながおか まさずみ)。
会計に、2年の玉田寛貴。そして書記に、同じく2年の関口景華だ。
生徒会長になった田丸俊。この人は、家が、日本有数と言われた旧財閥の田丸家跡取り。
家は財閥の名残で、大きな会社グループを経営しており、その血故か、頭がまわる。別の言葉で言えば、”賢い”のだ。
思いっきり大胆な人間で、中等部でも、生徒会長を務めていた。
その時は、自分の卒業式の挨拶時、壇上で全校生徒を目の前にして、幼馴染みの景華に大告白をしてみせた。
二人は現在でも全校生徒公認のカップルだ。
というわけで、内部進学者の多い学内で聞こえてくるのは、「大胆、変人、奇人」などとちょっとばかり不名誉な声ばかり。
だが、何故か人望は厚い、不思議な背景をもつ人物だった
「先生方、来年度の入学式について、お話があるのですが……」
と、前年度1月の生徒会発足直後に、職員室に単独乗り込んでいった。
そのことは他三人の生徒会役員には知らされていなかったようで……。
「入学式、生徒会かなり忙しいから、頑張ってね☆」
と、ウインクをされて、星まで飛ばされた日には、だれもが泣きたくなるだろう。
生徒会副会長、長岡将清は、いわば生徒会長である俊のお目付役であると言っても過言ではないだろう。
俊は普段、常にふざけている人間なのでそれを抑えるのが、彼の大体の役目となっている。
寛貴と景華は、みなさんもしってのとおりの二人である。

さて、閑話休題。
「寛貴ーーっ!!」
「おう、悪いな、遅くなって」
水華学園高等部は、校門をくぐるとまず校舎前のロータリーまでが遠い。その距離はざっと300m位だろうか。
今から行われるのは、各部の代表数名がその長い道にずらりとならんで、新入生に対して出迎えをするのだ。
大体、生徒会役員のいる部は一番校門に近い位置に並ぶことになっていた。
というわけで、寛貴の居るバスケ部と景華の居る料理部は、隣り合って並んでいるのだった。
寛貴と景華は入学式の段取りを未だ打ち合わせしている。
「かったりぃ……」
後ろの方に控えていた龍暁はぼそっと漏らした。
元々龍暁は、あまりこういう面倒くさいことが好きではないのだ。
「こーら、たっちゃん! 駄目だよ、せっかく後輩ちゃんたちが入学してきてくれるのに、そんなこと言っちゃ!」
「はいはい、悪かったよ」
逆にこういった行事が大好きな黒矢(こういうときは寛貴と一緒に居られるからだ)は、龍暁に食って掛かる。
龍暁は降参した、といった様子で黒矢の頭を撫でた。
その時だった。拡声器を通した特別大きい声が長い通路に響いたのは。
「はーい、皆さんご機嫌よう! 特にそこの景華チャンv」
「うっさいわね!!」
景華は音のしてきた方を向くと、鬼のような形相をしてそう叫んだ。
「あっはは、ごめーんv さて、皆さんわざわざ申し訳ないね〜、
 面倒くさいと思う奴がいるとは思うけど、これも明るい水華の未来のためだ!! 宜しく頼むぜ!」
生徒会長の田丸俊だった。拡声器を通して、皆に言い聞かせながら目の前を走っていく。
「さぁ、もう20分もすれば、新入生チャンたちが一杯きてくれるぞ。 みな、勧誘の準備はいいか?」
俊が一瞬表情を変えて、ニヤリとした声色で言った。
そう、この出迎えが各部ごとに分かれている理由。それは、この出迎えで部活の勧誘をするためだった。
昨年度までは、入学式翌日の全校対面会までは部活動勧誘が禁止されていたのだが、今年からは入学式に皆が働くことと引き替えに、
この出迎えの時間だけ、部活動勧誘が全面的に許可されたのだ。
これがきっかけとなって、働くことを嫌がっていた生徒からも生徒会の入学式運営に賛成の声が上がった。
今日はまちわびたその日なのだから、もう、皆は臨戦態勢だった。
「ねぇ、寛貴、今年はどれくらい入ってくれるのかな?」
「さあな……、去年俺らが25人だから……。 今年も同じくらいじゃないか?」
「ふーん……」
黒矢は景華と打ち合わせを終えた寛貴にくっついている。
張りつめた空気をまとっていた寛貴も、黒矢の側に来るとほっとした様子だった。
にっこり笑った黒矢と安堵の笑みを浮かべた寛貴との間にはもはや花さえ飛んでいた……。