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「……来たんじゃねぇか?」
龍暁のぼそっとした声で、弾かれたように校門の方を見れば、真新しい水華高等部の制服に身を包んだ何人かの新入生の姿があった。
「ようこそっ、水華学園高等部へ!」
俊が一番に走っていって歓迎の言葉を述べる。
それが合図となり、並んでいた皆が一斉に、部活勧誘を始めた。
その熱狂的とも言える勧誘の激しさに、一番乗りだった新入生数名は驚いた様子だった。
チラシを配る、実際に簡単な動作をしてみる、など、その演出は様々だ。
ちなみにバスケ部では、黒矢と龍暁がボールを持ち、ドリブルやボール回しなどをして見せたり、
さらには黒矢のアクロバティックを見せてみたり。
黒矢が飛ぶたびに、寛貴は顔面蒼白までは行かなくとも、不安そうな顔をしていた。

「お姉ちゃんっ!」
暫く時間もたち、新入生の数も増えてきた頃、ふと、寛貴達の耳に甲高い声が届いた。
「あら、和ノ介」
”お姉ちゃん”に反応したのは、すぐ近くで部活勧誘をしていた景華だった。
黒矢は何々〜?と興味津々の様子で景華の所へ行く。すると、それに従って、寛貴も龍暁も一緒に景華のもとへと続くことになった。
その景華の側には、黒矢よりも背の小さい子。
「何、あんた達、わざわざ来なくてもいいのに」
「えー、いいじゃん。 それより景華、この子は?」
黒矢が早く紹介してくれと言わんばかりの勢いで告げる。
「あ、はじめまして。 僕、関口和ノ介です。 今日から水華の高等部に通うことになりました、宜しくお願いします」
黒矢の要望にお応えして自己紹介をしたのは、景華の弟である和ノ介だった。
軽そうなくりくりの髪を揺らしてにこり、と笑ってみせる。大きな瞳はきらきらと輝いていて、まるで汚れを知らないような。
「はじめましてー! 俺、バスケ部の岡波黒矢です。 和ノ介くん、仲良くしようねー!」
「あ、はい! 宜しくお願いしますっ」
黒矢の花の咲いたような満開の笑顔にも劣らない和ノ介の笑顔。
(大輪の花がここにふたつ……。)
寛貴は、やっぱり黒矢を贔屓目で見ながらそう思った。
「ねぇ、寛貴もたっちゃんも、挨拶しなよ。 ほらっ」
寛貴は一人妄想に浸っていた所をその張本人によって現実に連れ戻され、あわてて、自己紹介をする。
「俺は、玉田寛貴。 生徒会役員、バスケ部だ。 よろしくな」
「はいっ。 宜しくお願いします!」
寛貴と和ノ介が並ぶと、黒矢がまだ大きく見える。和ノ介は、やはり黒矢よりもまだ少し小さい。
黒矢は3歩ほど離れた場所にいた龍暁にも自己紹介をさせようと、腕を引っ張ってつれてこようとした。
「たっちゃん! たっちゃんも、自己紹介!」
「…………」
「……たっちゃん? どうしたの?」
龍暁は何度呼ばれても動かない。……というか、無反応。完璧に自分の世界にいた。
(……え? なに、この関口の弟……。 本当に、男?)
龍暁の中に、和ノ介に似た風貌をもつ黒矢を初めて見たときには起き得なかった感情が、ふつふつとわき上がってきた。
「たっちゃ……? うひゃあぁっっ」
黒矢が奇声を上げたのは、龍暁がいきなりしゃがみ込んだからだ。
「たっちゃん! ちょっと、どうしたの?」
「……龍暁?」
黒矢や寛貴の呼ぶ声は、耳に届いていても意識していない状況にあった。
寛貴は、ああこりゃだめだ、と額に右手をあてて桜に埋め尽くされた天を仰いだ。

(やばいやばいやばい。 こんなん初めてだっつの……)
(……まさか、恋??)
愕然とした状況で龍暁はしゃがみ込んだまま、心の中で、馬鹿みたいにその”こい”と言う二文字の反響するのを聞いていた。
和ノ介を一目見てからその二文字にたどり着くまで、わずか5分足らずなのだが。
「……あの、龍暁、先輩……?」
その時、龍暁の脳まで、急に和ノ介の声が入ってきた。
「は、はいっ!?」
龍暁は、いきなりすくっと、立ち上がり、和ノ介を見下ろした。
「……よろしく、おねがいしますね?」
首を傾げながら、くりっと瞳を動かしてそう言った和ノ介。
(高橋龍暁、16歳っ……。高校生にして、本物の恋と出会う……)
龍暁は、馬鹿みたいな言葉を頭の中で呟きながら、和ノ介に、はは、と笑いかけた。

龍暁の一直線過ぎる恋、ここにはじまる。