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最近、龍暁は様子がおかしかった。
部室に行くと、何故かぼうっと窓の外を見ていたり、昼食を食べる量も減ったし、教室にいても窓の外をぼうっとして見ている。
どうしてだろうか。 ……部活になればなんとか普通にプレーをこなしているのでまさか、病気だなんてことはないのだが。

黒矢と寛貴が、今日も部活、部活、と部室に行けば、一足早く部室に来ていた龍暁は、
ソファに座って一人ぼーっとして天井を仰いだり、自分の膝に頬杖をついでみたりしている。
「たっちゃーん? ……寛貴、たっちゃん、どうしちゃったんだろ……」
「……普段慣れないことするからだろ、あの馬鹿。 ……ったく、使いもんにならねぇな」
寛貴は、黒矢の言葉にも応えようとしない龍暁を見て、けっ、と呆れて貶している。
「慣れないこと……? たっちゃん、なんかしてたっけ?」
「……まぁ、あいつにだってあいつなりの何かがあるのさ」
「……ふぅん」
寛貴に話してみても寛貴は傍観者の姿勢をとったまま。こうなったら、俺がたっちゃんをどうにかしてやらなければ!と、
黒矢は意気揚々と龍暁の隣に座り込む。
「たっちゃーん、どーしたの……?」
「ん……、ああ、黒矢か……」
今までぼうっとソファに座っていたたっちゃん、もとい龍暁は、隣に座った黒矢にやっとのことで気付いたみたいだった。
沈黙が流れる。寛貴はいつのまにか部屋から居なくなっていて、たぶんきっとトイレかどこかにいったのだろう。
「……なあ、黒矢」
「あ、なに!? たっちゃん」
沈黙の後で喋りだした龍暁がなにか教えてくれるのかと思い、黒矢は食いついた。
しかし。
「……肩甲骨は人間が天使だった頃の羽根の名残だって言うヤツがいたんだけど……、本当かな?」
…………。…………はい?
いや、龍暁は、こんなにメルヘンで電波な感じのことを言う人だっただろうか?
「……??」
黒矢は龍暁の謎の返答に困って困って頭を抱えた。どうやら彼に解ける問題ではなさそうである。
「……、はぁ、なんであんな可愛いのに、男なんだよ……」
龍暁は、頭を抱えて背もたれにのけぞり、はぁ、と深くため息をついた。
ところで、……男? かわいい? 今、なんと言ったか。
「たっちゃん……、今、男、って言った?」
「……へ?」
寝ぼけ眼をくっつけたような顔で龍暁が横を振り向いた。
「…………」
黒矢と龍暁の間に何とも言えない雰囲気の沈黙が流れる。
いつの間にか戻ってきていた寛貴はどうとも思っていない様子で少し離れた場所で着替えをしている。
龍暁は、やっぱり変な顔をしたままぼうっとしている。
「……………………」
沈黙が続く。
「……黒矢、さっさと着替えて早くこい おいてくぞ」
着替えを終えてジャージになり、バッシュの袋を持って今にも部室を出ていこうとしている寛貴が、黒矢に呼びかける。
「やだっ、待ってよ!」
「……待っててやるから早くしろ」
寛貴は、ロッカーを開いて急いで着替えをしだした黒矢を横目に、ため息一つつくと、
黒矢が立ったことで開いた龍暁の隣にぼすっと音を立てて腰を下ろした。
そして、前を向いたまま龍暁に向けて、慌てた黒矢には聞こえないような小さめの声で言う。
「おい、お前、腑抜けてんじゃねぇよ」
「……あ?」
龍暁は小さく、しかしどす黒い感情のこもった声で応えた。
「……龍暁。 いいか? 大切なのは、自分がどう思うかじゃない。 相手にどう思ってもらえるか、だ」
突然に語り出した寛貴に、龍暁は間抜けていた顔をなんとか元に戻して、聞き入り始めた。
「……お前、知ってたのかよ」
龍暁は、誰にも言っていないのに気付かれていたのか、と一人自問自答した。
しかし。
「……さぁな、何のことだ?」
寛貴はニヤリと不敵な笑みを浮かべて、黒矢の方に目を向けた。
もう、なんとか着替え終わりそうだった。あとは上にジャージを羽織るだけ。
「さて。 ……俺の言葉を信じるか否かは、自分で考えて決めろ。 それから、部活に支障はだすなよ」
以上、といってソファを立つと、黒矢の方へ向かい、いつもの如く鏡を覗き込んでいる黒矢の頭をくしゃりとなでつけると、扉へと歩き出す。
「たっちゃん、先に行ってるね?」
さっきの返答に不安を抱いていた黒矢も寛貴の後を追いながら心配そうに龍暁を振り返った。
「ああ、悪いな」
龍暁はさっきまでとはうってかわった柔らかな笑みを浮かべて黒矢を見やる。
一瞬戸惑った表情だった黒矢だが、またふわりと笑うと、あとでね、と声を掛け、寛貴が開けてくれていた扉から出ていった。

一人、静かになった部室で龍暁は思うのだ。
自分の知らぬ間に、周りの奴らは自分以上にもっと、自分のことを気付いてくれている、と。
「……よし」
龍暁は安心したような、自信を持った笑みを浮かべて、また一つ思った。
俺は孤独じゃない。
これなら、応援してくれる奴らが居るなら、自信を持って、彼のことを好きだと言える、と。
「和、ノ介……。 俺は、君が、―――」
すきだよ、と。