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「おら! はじめんぞ!」
寛貴の快活な声が体育館に響いた。
今日、三年生は模擬試験があり部活が出来ないので、二年生と新入部員である一年生だけで、部活をしていた。
そこで、二年生の代表兼、副部長となっている寛貴が、部活を進行していたのだ。
今日のメニューの中では、三年生がおらず一年生の実力を図るための良い機会だから、と、一年対二年の紅白戦が行うことになっていた。
今回の紅白戦では、完璧に一・二年は敵同士だ。二年は些か軽く行くつもりだが、一年生には、本気で掛かって来るように、と指示している。
練習試合と同じ形式で行うつもりだ。なので、互いにオーダーも代表がしっかり考えて試合を行う。
この試合は、毎年恒例となっており、なぜか一般生徒(大半は女子だ)から、「観戦させて欲しい」との
要望の声があったので、今年から「部活の邪魔に成らない程度なら、」と、観戦を許可していた。
だが思っていたよりも多くの生徒が集まり、アップを始めようとした頃には、簡易な観客席となっている二階部分は既に一杯だった。

体育館内は、特有の熱気がこもり、ムシムシとした空気が漂っていた。
「寛貴〜、こっちのオーダーは?」
黒矢は、体質のせいであまり正規の試合には出してもらえないので、今日ばかりは、とうきうきとした表情で寛貴に聞く。
「えっと……、龍暁、颯輝、黒矢、俺、あと、一真……、あいつ、何処行った?」
寛貴は辺りを見回すと、一真が居ないことに気付く。先程までフィールドに居たはずなのに。
一真には、昼寝癖がある。ほんの少し時間が在れば、いつでもどこでも寝てしまうのだ。
例えば、それは屋上だったり、体育館の誰も使わない器具庫だったり。
普通の人はそんな所じゃ寝ることなど考えないだろう、と言うようなところで寝始めるのだ。
「ったく……、あいつ。 試合開始まであと15分しか無いんだぞ……」
声は沈んでいて、寛貴が怒りをあらわにしていることがよく分かった。
「俺、アップがてら一真探してくるよっ!」
黒矢は意気揚々と名乗りを上げた。
しかし。
「駄目だ、唯でさえ、一年は半端じゃなく力出して来る。下手したら総力戦だ。 そんな時にお前に倒れられたら、困る。
余計な体力を今使わせてたまるか」
寛貴は黒矢に怒っている気はないものの、怒りをあらわにした厳つい顔で言った。
「うっ……、え、駄目?」
黒矢は寛貴の覇気に押され気味で、控えめに言った。
「駄目。絶対駄目だ。 ……颯輝、行って来い」
「……んぁ、俺ぇ……? めんどい」
颯輝はいきなり振られて、元々細い目を益々細めて嫌そうに言った。
「うっせ。早く行って来い」
しかし寛貴は有無も言わせず、結局、颯輝はフィールドを出て一真を探しに行った。




寛貴は黒矢に念入りにアップをさせている。
龍暁と連れだって、黒矢はアップを行っている。観客席の一部からは、生の二人のプレーに黄色い歓声が飛び散った。
「寛貴、連れてきたよ」
黒矢のアップを見ていた寛貴の耳に、颯輝のねっとりとした声が聞こえてきた。
振り向けば、颯輝と、その後ろには何やら不機嫌そうな一真が立っている。
一真は、ユニフォームを着ているものの、首にはいつものようにアイマスクがかかっていた。
「颯輝、悪かったな。 ……一真、お前なぁ、いい加減にしろよ? 試合前に寝に行ってるヤツなんて、滅多にいないぞ」
「……わかってるよ。 ちゃんと試合はやるから……」
一真は面倒くさそうに言うと、ベンチにアイマスクを置いて、黒矢達の所へ行くと、アップをはじめた。
いつもよりも寝にいった後の機嫌が悪くなっているのは気のせいだろうか。
「……颯輝、お前一真に何かしたか?」
寛貴は目を細め、ふと思いたって後ろに立っている颯輝に肩越しに問いかけるが、颯輝は変わらぬ声音で。
「なんにも、ないよ?」
そういってクスリと笑うと、寛貴のとなりをするりと抜けて、彼もまたアップをしに行った。



「勝つのが当たり前」
「一点でもリードされたらそれは恥」
「抜かれることは許されない」
「まさか、これは洗礼。罪悪感なんて、ないよぉ?」
「酷く扱ってやる。取ったもん勝ち」
円陣を組んだ彼らは寛貴、龍暁、黒矢、颯輝、一真の順に、それぞれにこの洗礼の意味を口にする。
「水華三龍、陽月、参る!」
寛貴が円陣のかけ声として大きな声でそう宣言すれば、周りからも歓声があがる。
水華三龍、また、陽月は、彼らが昨3月に卒業していった3年レギュラーメンバーの先輩に与えられた名だ。
三龍は、寛貴、黒矢、龍暁のことを示す。順に孤高の龍、俊敏の龍、奪点の龍と個々の名がある。
陽月は、一真を決して音を立てずかつ変わらぬ明るさで輝く太陽、
また、颯輝を華麗にかつ何が起きても残酷な光を放つ月、それぞれに準えて付けられた名だ。
水華三龍、そして陽月の名を先輩から預かっているからには彼らに負けは許されない。
今こそ、彼らの躍動が、フィールドに木霊するのだ……。