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「龍暁っ」
ああ、もちろんわかっているさ。
龍暁はそう心の中で呟いた。
寛貴に声をかけられたと思えば、手の中に飛び込んできたのはボール。
龍暁が、チームの機動力となる黒矢のために、司令塔の寛貴と共にしっかりアシストの役目を果たさなければならないのは百も承知のことだ。
(わかってないわけ、ないだろっ……!!)
失敗は、もちろん許されるわけがない。
「たっちゃーんっ! ……っもっらいぃ!!」
龍暁から勢い良く走りながらパスを受けた黒矢は、身長のハンデを覆すほどの跳躍力を見せつけ、
小柄な身体からは想像できないような力強いダンクをかましてみせた。
俊敏に、かつ豪快に思い切ったプレーで魅せる黒矢には、観客席からも黄色い声が届く。
名前を呼ばれるたびに、黒矢は嬉しそうに手を振って喜びを表す。
「黒矢っ……、ナイスシュー」 
「ありがとっ……。 久し振りだから、まじ楽しいっ!」
寛貴にも褒められ、黒矢のテンションは最高潮のようだ。
テンションがあがれば、気持ちに相乗して自然とプレーもよいものになる。
そのことを分かっていて、寛貴は黒矢の力を益々引き出そうとして積極的に声をかけるようにしていた。

ハーフタイムを挟み、試合はやはり、と言うべきか、寛貴達のチームが点差をつけて勝っていた。
しかし、一年生だって、やる気をなくしているわけではない。
もっとも、何てったって総力戦なのだからやる気をなくされては困るのだが。
「龍暁……?」
異変に気付いたのは、寛貴だった。
普段、龍暁は休憩中でも絶対に脚を動かすのだけはやめないプレーヤーだ。
しかしそれが、今はどうしたことか、頭にタオルをかけたまま、しゃがみ込んでいる。
「たっちゃん? どーしたの?」
流石に息を荒くしているほどの黒矢でも、まだまだいけそうな心持ちだった。
が、しかし。
「わり……、ちと、しくじった……。 はは……」
明るくふるまっているようだったが、黒矢が顔を覗き込めば、龍暁の顔は真っ青だ。
「たっちゃん……!? 何したの!?」
「ん……、何だろ……、ヤバイ……」
既にくらくらとして、意識もすこし危ないらしい。
熱さにやられたのか、水分補給を怠ったのか。
「やばいな……、おい、誰か担架持って来い!」
控えていた数名の部員が声を掛け合って体育館の倉庫に担架を取りに向かった。
龍暁はもう完璧に座り込んでしまっている。黒矢が不安そうに瞳を揺らしながらタオルを持って、
龍暁の汗を拭ってやっているが、後から後から、龍暁の額には汗が浮かんでくる。
「たくっ……、黒矢ならともかくてめぇがそんな状況でどうするんだよっ……」
寛貴は、不安と共に苛立ちを隠せないようだ。
「はぁっ……、ぁ……」
龍暁の異常な様子に、黒矢は本当に不安そうになっている。
寛貴は、これ以上の黒矢のテンションを下げるわけにはいかないと、黒矢を立たせ、颯輝と一真の元へ向かわせる。
現在、龍暁の体調不良を理由に試合は一時的に中断しているが、試合がこのまま中止になることはないだろう。
だから、黒矢を休ませていると試合再開時にまた困ることになる。
「馬鹿ヤロー……」
「わり……い」
龍暁は、自分の汗を拭ってくれているのが、いつのまにか黒矢から寛貴に替わっていることをなんとか認識していた。
「もう少しで担架もってくるから、それまでは、どうにか意識を保てよ」
「ん……、はぁ……」
息は荒く、どうにも苦しそうだ。黒矢が体調を崩すならまだしも、龍暁がそんな状態に陥るなど、あってはならない。
……が、起こってしまったことは仕方がないだろう。
「玉田! 担架もってきたぞ!」
「あぁ、悪いがコイツを頼む……!!」
部員が持ってきた担架に龍暁を乗せて運んでいくのを確認すると、寛貴はまた黒矢達の元へと戻っていった。

「龍暁さんっ……!?」
しかし、その視線の端に龍暁の愛おしく思う子の姿を見つけると寛貴は、もう大丈夫だろう、とくすりと微笑んだ。

和ノ介は、姉からの情報でバスケ部の紅白戦をクラスの友達と見に来ていた。
入学式からも仲良くして貰っていた黒矢や寛貴、龍暁のプレーはとても鮮やかで、本当に素晴らしいものと言えた。
元々、黒矢には、「ハーフタイムにはベンチの近くまで来てくれるよね?」と言われていたため、
ハーフタイムにはベンチ近くの出入り口まで向かおうと考えていた。
しかし、いってみても、なぜか周りは慌だたしい。
そして、部員が来たかと思えばその手には担架。
「え……?」
まさか、誰かが倒れたりしたのだろうか……??
そう思っていた矢先のことだった。
入って行った担架が出てきて、誰だろうか、と不安を胸に背の高い集団の合間を覗き込んだ。
「……た、龍暁さん!?」
まさか、と思ったのだ。
あんなにも元気そうで、何より格好良い、彼が、だなんて。